溺愛執事は貧乏お嬢様を守り抜く
紫音の気持ちと、そして自分自身の気持ちを。


「紫音……くん」


気がつけば弱々しく呟いていた。


幼い頃に呼んでいたみたいに、くん付けにして。


今だけはお嬢様でも執事でもなかったあの瞬間に戻りたい


布団の中から彼の方へそっと手を伸ばしてみた。


お願い、この手をとって欲しい。


そしたら、私はあなたに……。


伝えたいの。


だってもう体の奥底から溢れ出てきている。


キミへの好きって気持ちが。


「……」


「……あ」


ほんの一呼吸してから、その手を握り返してくれたから心の底から安堵した。


なぜだろう、いつもの彼の暖かい手が冷たくなっているように感じる。


どうしよう……恥ずかしい……だけど嬉しい。


胸がドキドキし過ぎて失神してしまいそう。


彼は黙ったままだったけど、もうこの胸の中に芽生えている恋心を全部吐き出したいよ。

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