溺愛執事は貧乏お嬢様を守り抜く
「……」


ふと見れば紫音はかすかに肩を震わせ拳を握りしめている。


「わかりました」


眉間に皺をよせながら答えると、私の手を引いて客間の方へ歩き出した。


痛いぐらいに強く手を握られていた。


その時は気にしている余裕も無くて黙って彼について歩いた。


客間には最近入っていなかった。


だってここ最近は来客なんて滅多になかったから。


客間に足を踏み入れるとひんやりした空気に身震いした。


紫音が電気と暖房をつける。


「おい、ほんとにこの邸には使用人は君1人だけなのか?」


「ええ、そうです」


天堂さんの問いかけに面倒くさそうに答える紫音。


「噂には聞いていたけど、随分と……」


最後まで言わずに口を噤む天堂さん。


客間と言っても、ソファがぼつんと置かれているだけの殺風景な部屋。


< 231 / 341 >

この作品をシェア

pagetop