溺愛執事は貧乏お嬢様を守り抜く
「……」


「僕たちは結婚するんだから」


「……」


「もう決まっていることだよ」


低い声でそう言いながら、薔薇の花束をさしだす彼。


「僕の父が決めたことだ。今の如月家に拒絶権は無いよ」


「天堂さんのお父様が……どうして?」


今の如月家と婚姻を結ぶメリットなんて……思いつかない。


「さあ、よく知らないけど昔学生の時に君の母上に失恋したらしい。
おおかたその未練から、僕たちの婚約を決めたんだろう」


冷静に事実だけを語る彼からは確かに情熱、みたいなものは感じない。


それに、自分の父親のことなのにまるで他人事のように語るなんて。


やっぱり、底の知れない人。


でもそうか、天堂さんの父親とうちの父が仲違いしたのは母を取り合ったせい。


過去にそういう因縁があったから、婚姻を結びたがっているのか。


私には天堂さんのお父様の心理は理解できないけど、なんとなくこの婚姻の意味がわかってきた。


「僕と結婚すれば君はすべてを手に入れられる」


彼の言うすべては、
本当に私が欲しいもの?


「で、でも、私の父はなんと返事をしたんですか?」


一縷の望みをかけて問いかける。

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