溺愛執事は貧乏お嬢様を守り抜く
あの朝、紫音がいなくなった時の記憶はおぼろげで途切れ途切れにしか覚えていない。


今年初めての雪が降っていて、凍えるくらい寒かった気がする。


泣きながらパジャマ姿で裸足のまま邸の周りを走りまわっていた私。


『紫音ー、紫音ー、どこ、どこにいるの?紫音っ』


彼を探して半狂乱になっていたみたいで、車で駆けつけてくれた晶ちゃんはびっくりしたらしい。


『若葉、若葉、しっかりして、若葉ー』


『晶ちゃん、どうしょう、紫音がいないの。どこにも、どこにもいないの』


『若葉、落ち着いて』


『紫音が、手紙をのこして、あとお金と通帳も置いていっちゃって。
紫音、これからどうするんだろ、大丈夫なのかな』


『大丈夫、大丈夫だよ。紫音さんは』 


晶ちゃんは必死で慰めようとしながらも、私の様子を見てショックを受けたらしい。


『やだ、やだよー、こんなの。
お別れなんてっ。
どうして、どうして?』
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