溺愛執事は貧乏お嬢様を守り抜く
「あ?誰が部外者だって?」


私はまじまじと穴のあくほど彼を見つめた。


不機嫌そうな低い声、しなやかな身のこなし、そして懐かしいぬくもり。


サングラスとマスクでも隠し切れない端正な顔立ち。


まさか……。


脳が理解すると同時にツーッと熱い涙が頬を伝う。


「しっ、し、しっ」


池の鯉みたいにパクパク口を開けて空気が漏れていくだけで、上手にその名を呼べない。


「ちょっとあなた、作業着のあなた、何してるの?」


先生が怒りを露わに駆け寄ると、彼はサングラスとマスクを外し前髪をかきあげる。


「遅くなってすみません、俺は若葉お嬢様の執事です」


「えっ、あなた、紫音くん?」


先生は目を白黒させている。


「はい」


たちまち、あたりは女子生徒達の黄色い悲鳴に包まれた。




「きゃー、紫音、紫音だわ」
< 303 / 341 >

この作品をシェア

pagetop