溺愛執事は貧乏お嬢様を守り抜く
あの時は、どうしてもそうしたかったの。


「せめて最後に何かお礼をしたかったから。これまでうちで働いてくれた感謝のしるしに」


そう言って、彼の方をそっと見つめるとハーッと深いため息をつかれてしまった。


「お嬢様は優しすぎます。
それでこの先どうやって暮らすつもりだったんですか?」


「あ、それは」


ノープランだった。
昨日はこの先のことなんてこれぽっちも考えていなかったから。


「ごめんなさい」


さすがに、しゅんとして目線を落とした。


「いや、俺は怒ってるわけじゃくて」


「……」


「お嬢様、もっと自分を大切にしてください。こんな時だし何よりも自分のことだけを考えて欲しいです」


彼の声が少し寂しげに耳に響いた。


心から私のことを心配してくれているってわかる。


「うん」
< 50 / 341 >

この作品をシェア

pagetop