溺愛執事は貧乏お嬢様を守り抜く
そこにあったはずの私のドレスや宝飾品がすっかりなくなっているからだ。


「あ、えっと」


「……」


「紫音……」


「全部あげてしまったんですね……」


俯いたまま辛そうにそう言う。


「う、うん。お金だけじゃ足りないかなって」


「……そうですか」


現金が無くなっていたことよりもはるかにショックを受けているみたい。


「パーティーなんてもう行くこともないだろうし、宝石だって今の私には必要ないから」


「でも、お嬢様の持ち物がこんなに少なくなってしまって……」


「紫音?」


「ひとつひとつ思い出のある大切なものなのに」


こちらを振り向かない彼の背中が寂しそうに見えた。


お金のことよりも私の持ち物がなくなったことを、こんなにも気にかけてくれている。


どうしょう、私以上に彼が落ち込んでしまうなんて。
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