溺愛執事は貧乏お嬢様を守り抜く
彼は私が泣いていたことには触れないで白いハンカチでそっと涙を拭ってくれた。


「夜に食べたら太っちゃうよ」


「もう、手遅れじゃないですか?」


クスッと笑って軽口を言う彼はいつもとあまり変わらない。


「ほらこのほっぺた」


そう言って人差し指で私の頬をツンツンしてくる。


「もうっ、紫音ったらー」


唇を尖らせて怒ったふりをしてパシンと軽く彼の腕を叩く。


「いてっ、骨が折れそうです」


「そんなわけないでしょっ」


わざとらしく顔を顰めるからおかしくて、思わず笑みがこぼれた。


彼と私は邸の中では1番年が近いから普段から兄と妹みたいに気安く接してくれている。


幼なじみでもあるから気心が知れていて。


けれど、彼ともうこんな風に冗談を言いあうことも無くなるんだなって思ったらまた急に涙が込み上げてきて。


「……っ」
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