御曹司は初心な彼女を腕の中に抱きとめたい

出会い〜蒼生サイド〜

奥山(おくやま)、今日暇か?」

同じ研究所で働く松本さんから帰り際声をかけられた。松本さんは俺よりも2歳歳上。社交的な人で、引きこもりがちな俺を何かと連れ出そうと話を振ってくる。

「いや、今日はまだこの続きをもう少しするつもりで……」

「そうか、暇か。よし、じゃ片付けをしろ」

暇だなんて一言も言っていない。それなのにものすごい笑顔で俺に圧をかけてきた。
また飲みに連れて行かれるのか、と半ば笑うしかない。松本さんは飲むのが好きで、月に1度は連れ出されていると思う。ご飯の美味しい店から始まり、飲み屋をハシゴするのが常。俺は酒に強いこともあり、割と常連メンバーだ。面白みのない自分が誘われるのは酒が強いからなんだろうと自分で解釈している。
各々片付けをし、着替えたところで休憩スペースに集合し会社を出た。いつものメンバーかと思ったら今日は少し違うらしい。社を出る時は3人だったが、お店に着くと本部の営業原木(はらき)梅田(うめだ)がいた。何かと研究所に来るので見知った顔だったが珍しいメンバーだと思った。

「松本さん、こっちですよ」

ふたりに呼ばれるままテーブルへつくと女性も5人座っていた。まさか?
俺は松本さんの顔を見ると他所を向かれた。
あまり人付き合いが好きではないので合コンなんて滅多に行かない。いや、ほとんど行ったことがない。こんなつまらない研究バカといても楽しいわけがない。
はぁ……とため息が出そうになる。
ご飯を食べたら何かしらの理由をつけて帰ろうと決め、一番端の席に座った。
みんなの手元にビールジョッキが回ると営業のやつが乾杯の合図をした。
俺は隣に座る松本さんと向かいの女性のグラスを合わせるとゴクリと喉に流し込んだ。
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