御曹司は初心な彼女を腕の中に抱きとめたい
「みちる、週末はどうだった?」

早速美和が昼休みに私の話を聞きたくてランチに誘ってきた。

「うん。すごく楽しかったよ」

「それで?」

その先もあるでしょ、と言わんばかりに前のめりになって話かけてきた。1時間しかないこの時間に根掘り葉掘り聞かなければ、と矢継ぎ早に質問をしてくる。
彼から好意があることを告げられたことや、私の気持ちが追いついてくるまでは友人でいようと言われた話をした。昨日出掛けてきた話まで聞き出されてしまった。

「なかなか誠実な感じなのかしら」

誠実、なのかな。でも彼に振り向かせて見せると言われた話は美和にはしなかった。私だけの秘密にしておきたかった。
今でも彼の言葉を思い出すだけでドキドキしている。

「で、みちるはどう思ったの? 一緒に出掛けてみて楽しかったんでしょ。付き合うの?」

美和の言葉に私は考え込んでしまう。

「わからないの。付き合うってなんなんだろう。好きか嫌いかといえば嫌いじゃないの。でもそれで付き合うってことになるのかな?」

付き合った経験のない私には付き合う基準がわからない。すると真面目に美和が答えてくれた。

「私が思うのは一緒にいたいかどうか、だと思っているの。一緒にいても疲れない。たとえ会話はなくても空気のような存在で、なくてはならないようなものなんじゃないかな」

「それが貴人くんてわけなんだね」

私が美和の彼の話を出すと、頬を少し赤らめ小さく頷いていた。

「多分、ね」

美和が貴人くんを大切にしているのは私が見てもわかる。そして彼も美和を大切にしていると感じる。時々喧嘩もしているけど、きちんと言いたいことを言い合える存在って本当は大切なんだと思う。

「みちるが付き合うことをまだわからないって感じているうちは答えを出さなくてもいいと思う。きっとその時がきたらみちるから彼に会いたくなるし、触れたくなると思うよ」

私から彼に触れたくなる?
考えただけで顔が火照ってくる。
また会いたいなとは思う。でも触れたいのかはわからない。ただ、この前離れてしまった手が寂しく感じたのは好きになってきているってことなのかな。

「焦らなくていいんだよ。みちるの気持ちを大切にして。もちろん応援してる。でも何かあればいつでも助けるからね」

美和はやっぱり頼りになる。この1時間の間に私の頭の中が整理され、もう少し彼に近づいてみたいと思った。
付き合う基準はわからないけれど、自分の気持ちに素直になりたいと前向きに思った。
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