御曹司は初心な彼女を腕の中に抱きとめたい
車は高速に入り、それほど渋滞に巻き込まれず1時間半で彼の目的地だった水族館についた。
駐車場に慣れた手つきで車を止めると、前髪をいつものように戻すことなく、かき上げた状態で歩き始めた。
いつもの奥山さんとは違ってなんだかキラキラして見えた。ううん、奥山さんには変わりない。車の中で話す彼はいつもと何も変わらなかった。ただ、彼を前にして私が意識しすぎてしまっているのだと思う。
ふと彼は私の手を掬い上げるように繋いできた。何事もないように自然につながれた私の手は彼の形を覚えていたかのようにスッと馴染んだ。私もそっと握り返した。
ふたりで展示を見て周り、イルカショーを見学した。水しぶきがかかってお互いに笑い合った。彼は羽織っていたシャツで私の腕や髪の毛についた水を拭いてくれた。
「シャツが濡れちゃう」
「大丈夫。すぐに乾くよ」
彼の自然なその様子に周りの女の子たちがキャー、と言っている声が聞こえてきた。でもそれは反対に私を貶す声でもあった。
今日の彼は前髪をあげ、イケメンな顔が全部見えている。長身でスタイルもよく、今日の服装もシンプルなのにとても似合っていた。そんな彼の隣に私のような女がいるなんて理解できないのだろう。顔を上げられずにいると彼は私の腰に手を回し、抱き寄せてきた。
「俺はみちるちゃんが一番だよ。信じられない?」
耳元で話す声は少し低くて胸の奥をくすぐる。私がパッと顔をあげると彼の視線とぶつかりあった。
彼は私を抱き寄せたまま密着するように歩き始めた。この前と同じ彼の匂いがした。
「ありがとう」
「なんのお礼かわからない」
女の子たちの声が彼にも聞こえたんだろう。それで俯いた私を掬い上げてくれたんだと思った。
今まで彼の見た目なんて気にしたことなかったけど、今日初めて彼の隣に立つのは大変だと思った。本来ならいい意味で目立っているけど、私からしたらいつもの彼のままが良かった。急に彼の存在を遠く感じてしまった。彼に会いたかったけど、ドキドキするのと同時に不安になってしまう。みんなに見られるほどの彼が私を選ぶ理由がわからない。
抱き寄せられるこの腕は嬉しいはずなのに、少し複雑だった。
どことなくぎこちないままに私たちはランチをしようと近くにあるイタリアンに寄った。
ピザとパスタを注文してするとこの前のようにシェアしようと話した。
テーブルを挟み、やっと少し落ち着いた。彼の顔は見慣れないけれど、話す言葉はいつもの彼と同じだった。
「あそこにいる人、格好いいよね。モデルかな?」
少し離れた席にいた人の声がここまで聞こえてきた。
「もしかして一緒にいるのは彼女かな」
明らかに、違うでしょというニュアンスが混じる言い方だった。
もし私が彼女たちでも違うと思うだろう。そのくらい私と彼の見た目は釣り合わない。
どんどんと隣にいる自信をなくしていった。
「みちる!」
彼に呼び捨てにされ驚いた。
「ほら温かいうちに食べよう」
気がついたら私の分のパスタとサラダを取り皿に分けてくれていた。
何も言わずに食べ始めると、彼は何かと私の世話を焼いてきた。
「ほら、こっちのも食べてみて」
彼が追加で頼んだサーモンとアボガドのタルタルディップが私の口に運ばれてきた。
あ……。思わず口を開いて食べてしまった。
「ちょっと、やっぱり彼女なんじゃない? いいなぁ、あんな甘い彼氏がいて」
聞こえてきた声は先ほどとは違い、羨む声だった。
「みちる、美味しいだろ?」
呼び捨てにされるだけで彼の特別な存在になったような気持ちになる。なんだろう、この気持ちは。
周囲を牽制するように私の気持ちに寄り添ってくれるのがわかる。そして、私自身も彼の特別になりたいんだと思った。
彼は何も変わっていない。この前まで彼と一緒食事をすることやメッセージのやり取りが楽しかった。たとえ彼の見た目が変わろうとも本質は変わらない。いつでも私の機微を敏感に感じ、守ってくれる。
やっと気がついた。
私のこの気持ちは恋なんだ。
一緒にいたい、触れたいって思うはずだと美和に言われた。確かに彼に繋がれた手は特別だと思った。それに周囲の女の子たちが気になって仕方なかった。私に自身がないのもある。でも一番は彼を取られたくないって気持ちなんだと思う。
一気に湧き上がってきたこの気持ちを彼に伝えたい。
私は彼の目を見つめると自然と言葉が出てきた。
「好き」
「よかった。みちるが好きな味だと思ったんだ。こっちのチーズフライもとろけていてうまいよ」
え?!
私の一世一代の告白だったのに何故か会話が噛み合わなかった。
いや、こんな場所でまさか告白をするとは彼も思わなかったのだろう。思いきり恥ずかしくなった。
「あ、うん。ありがとう」
彼がお皿に乗せてくれたいチーズフライを勢いよく口の中に入れた。
「熱いっ」
「ほら、みちる。やけどするぞ」
冷たい水を手渡され、飲み干すと彼は笑っていた。私も照れ隠しのように笑ってしまった。
やっといつものふたりに戻ったように会話が弾むようになった。
駐車場に慣れた手つきで車を止めると、前髪をいつものように戻すことなく、かき上げた状態で歩き始めた。
いつもの奥山さんとは違ってなんだかキラキラして見えた。ううん、奥山さんには変わりない。車の中で話す彼はいつもと何も変わらなかった。ただ、彼を前にして私が意識しすぎてしまっているのだと思う。
ふと彼は私の手を掬い上げるように繋いできた。何事もないように自然につながれた私の手は彼の形を覚えていたかのようにスッと馴染んだ。私もそっと握り返した。
ふたりで展示を見て周り、イルカショーを見学した。水しぶきがかかってお互いに笑い合った。彼は羽織っていたシャツで私の腕や髪の毛についた水を拭いてくれた。
「シャツが濡れちゃう」
「大丈夫。すぐに乾くよ」
彼の自然なその様子に周りの女の子たちがキャー、と言っている声が聞こえてきた。でもそれは反対に私を貶す声でもあった。
今日の彼は前髪をあげ、イケメンな顔が全部見えている。長身でスタイルもよく、今日の服装もシンプルなのにとても似合っていた。そんな彼の隣に私のような女がいるなんて理解できないのだろう。顔を上げられずにいると彼は私の腰に手を回し、抱き寄せてきた。
「俺はみちるちゃんが一番だよ。信じられない?」
耳元で話す声は少し低くて胸の奥をくすぐる。私がパッと顔をあげると彼の視線とぶつかりあった。
彼は私を抱き寄せたまま密着するように歩き始めた。この前と同じ彼の匂いがした。
「ありがとう」
「なんのお礼かわからない」
女の子たちの声が彼にも聞こえたんだろう。それで俯いた私を掬い上げてくれたんだと思った。
今まで彼の見た目なんて気にしたことなかったけど、今日初めて彼の隣に立つのは大変だと思った。本来ならいい意味で目立っているけど、私からしたらいつもの彼のままが良かった。急に彼の存在を遠く感じてしまった。彼に会いたかったけど、ドキドキするのと同時に不安になってしまう。みんなに見られるほどの彼が私を選ぶ理由がわからない。
抱き寄せられるこの腕は嬉しいはずなのに、少し複雑だった。
どことなくぎこちないままに私たちはランチをしようと近くにあるイタリアンに寄った。
ピザとパスタを注文してするとこの前のようにシェアしようと話した。
テーブルを挟み、やっと少し落ち着いた。彼の顔は見慣れないけれど、話す言葉はいつもの彼と同じだった。
「あそこにいる人、格好いいよね。モデルかな?」
少し離れた席にいた人の声がここまで聞こえてきた。
「もしかして一緒にいるのは彼女かな」
明らかに、違うでしょというニュアンスが混じる言い方だった。
もし私が彼女たちでも違うと思うだろう。そのくらい私と彼の見た目は釣り合わない。
どんどんと隣にいる自信をなくしていった。
「みちる!」
彼に呼び捨てにされ驚いた。
「ほら温かいうちに食べよう」
気がついたら私の分のパスタとサラダを取り皿に分けてくれていた。
何も言わずに食べ始めると、彼は何かと私の世話を焼いてきた。
「ほら、こっちのも食べてみて」
彼が追加で頼んだサーモンとアボガドのタルタルディップが私の口に運ばれてきた。
あ……。思わず口を開いて食べてしまった。
「ちょっと、やっぱり彼女なんじゃない? いいなぁ、あんな甘い彼氏がいて」
聞こえてきた声は先ほどとは違い、羨む声だった。
「みちる、美味しいだろ?」
呼び捨てにされるだけで彼の特別な存在になったような気持ちになる。なんだろう、この気持ちは。
周囲を牽制するように私の気持ちに寄り添ってくれるのがわかる。そして、私自身も彼の特別になりたいんだと思った。
彼は何も変わっていない。この前まで彼と一緒食事をすることやメッセージのやり取りが楽しかった。たとえ彼の見た目が変わろうとも本質は変わらない。いつでも私の機微を敏感に感じ、守ってくれる。
やっと気がついた。
私のこの気持ちは恋なんだ。
一緒にいたい、触れたいって思うはずだと美和に言われた。確かに彼に繋がれた手は特別だと思った。それに周囲の女の子たちが気になって仕方なかった。私に自身がないのもある。でも一番は彼を取られたくないって気持ちなんだと思う。
一気に湧き上がってきたこの気持ちを彼に伝えたい。
私は彼の目を見つめると自然と言葉が出てきた。
「好き」
「よかった。みちるが好きな味だと思ったんだ。こっちのチーズフライもとろけていてうまいよ」
え?!
私の一世一代の告白だったのに何故か会話が噛み合わなかった。
いや、こんな場所でまさか告白をするとは彼も思わなかったのだろう。思いきり恥ずかしくなった。
「あ、うん。ありがとう」
彼がお皿に乗せてくれたいチーズフライを勢いよく口の中に入れた。
「熱いっ」
「ほら、みちる。やけどするぞ」
冷たい水を手渡され、飲み干すと彼は笑っていた。私も照れ隠しのように笑ってしまった。
やっといつものふたりに戻ったように会話が弾むようになった。