御曹司は初心な彼女を腕の中に抱きとめたい
翌朝目が覚めると彼は私を抱きしめるようにまだ眠っていた。
寝ていてもイケメンに違いない。朝日が差し込むこの部屋で、こんなに間近で見てもシミひとつない。閉じられた目もまつ毛が長く羨ましい。長い前髪を後ろにかき上げるとこんな彫りの深い綺麗な顔が出てくるなんて本当に想像もしていなかった。そして、そんな彼と付き合えるなんて少し前には考えられなかった。
私の髪の毛をいつも撫でてくれるように私も手を伸ばし、彼の髪の毛に触れてみた。
私の髪の毛よりも少し硬く、ハリがあった。つい寝ているのは分かっているが頭を撫でてみると、パッと私の手首を掴まれた。

「いたずらっ子だな、みちる」

寝起きとは思えない顔に私は恥ずかしくなる。私はきっと昨日お酒も飲んだし顔がむくんでいるはず。こんな顔見せられない。
思わず彼の胸の中に顔を埋めた。すると彼は私を腕の中に包み込み、頭にキスを落とした。

「蒼生さん!」

驚いて思わず顔を上げると、今度は唇にキスが落とされた。

「さぁ、ルームサービスでも頼もうか」

彼はばさりとバスローブを羽織るとベッドから起き上がった。その姿は様になっており、妙に似合っていた。蒼生さんってなんだか不思議。製薬会社の研究員のはずなのに何故かこんな素敵なホテルもレストランも、バスローブでさえもしっくりと似合ってしまう。その違和感を少し感じてしまっていた。
私が洗面を済ませると、昨日花火を見たバルコニーに朝食が並べられていた。クロワッサンにサラダ、スープ、コーヒーが置かれていた。

「すごい、テレビみたい」

私が興奮しながら話すと、彼は笑っている。

「そう? でも喜んでくれてよかった。夜の花火も良かったけど、朝の海もなかなかだ。あとであの船に乗ってみないか?」

眼下に見えるクルージング船を指差していた。確か半日クルージングできるってテレビで見た気がする。でも昨日から贅沢すぎて、私の金銭感覚が鈍ってしまう。これ以上彼にお金を使わせたくない。

「昨日からこんなに素敵な一日が送れるなんて夢みたいです。でも、私には贅沢すぎて……。これ以上だと返って怖くなっちゃう。私は蒼生さんといられたらそれだけで十分です」

「付き合った記念なんだからいいんだよ。でもみちるの意見もその通りだな。俺もみちるといられたら十分だ」

「ごめんなさい。せっかく提案してくれたのに」

彼が色々と考えて計画してくれたのに、それを無碍にするなんて悪かったかもしれない。でも私は本当に彼と一緒にいられたら十分だと思ったのは本心だ。
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