御曹司は初心な彼女を腕の中に抱きとめたい
「みちる! 昨日あのあとどうだった? 何かされなかった?」

同僚の浅沼(あさぬま)美和(みわ)が声をかけてきた。

「え? 美味しかったよね」

「そうじゃないって。あのボサボサ頭の男が駅まで送ったでしょ? 大丈夫だった?」

「うん。駅でバイバイしたから」

「良かったー。なんだか愛想も悪いし、見た目もイマイチだったから心配だったな。原木くんは彼をいい奴だって言うから信用してみちるを託したけど」

なんだか美和は不満顔だったが、私には昨日のあの人が失礼だなんて全然感じなかった。そんなにボサボサだったかな、とふと思ったがあまり気にもならなかった。
周囲にはいつものんびりしてる、マイペースだと言われるが自分ではそんなつもりもない。ただ、あまり男の人に興味もなく、付き合いたいとか思ったことがないのだ。
昨日のボサボサの人も特に印象はなく、名前さえ分からない。
ただ、料理を美味しそうに食べていたのだけは覚えている。合コンなのに会話に混ざらず、ひたすら食べ続けていた。私はその食べっぷりに思わずデザートのお誘いをしてしまった。そして断らずにクレームブリュレを頼んでいた。私もあんなに食べたのにデザートの盛り合わせを頼んでも表情一つ変えなかった。他の人なら私の姿を見て、まだ食べるの? という表情を浮かべそうだが、彼は全くなかった。お互い特に相手を意識していなかったのだと思う。でも気を遣わずにあの場にいられたのは彼のおかげだと思っている。
いつもなら誘われて合コンに行っても食べてばかりの私は除け者で、最後会話にも入れなくなる。でも昨日は同じような人がいて助かった。美味しいご飯を食べられた。だから彼の顔はうろ覚えだが、悪い印象はない。
むしろまたどこかで会ってもわからないくらいだと思った。
< 4 / 60 >

この作品をシェア

pagetop