御曹司は初心な彼女を腕の中に抱きとめたい
週末の土曜日、彼は私を車で迎えにきてくれた。
今週は仕事が落ち着いているようで、この前話してからすぐに部屋へ招待してくれた。
彼のマンションらしき場所へと近づいていく。まさか、ここに住んでいるの?
車の中からは上層階が見えない。
エントランスに近づくと車を誘導する人が見えた。ドアの目の前に車を付けると彼は車から降りたので、私もそれに倣った。
「じゃ、これ」
彼は車のキーを渡すと自動ドアの中へ入っていった。
「ここの35階なんだ。みちるは高いところ大丈夫か?」
「35階?!」
思わず大きな声が出て、慌てて口を押さえた。
「あぁ、みちるの会社の弓川もここに住んでる」
そういえば社長とは学生の時からの友人だと書いてあった。
ドアを入るとコンシェルジュがふたりカウンターに立って頭を下げていた。私も頭を下げるとふたりとも笑顔で応対してくれる。
そんなふたりに私を紹介してくれた。
「安藤みちるさんだ。これからよくここに出入りするのでよろしく」
「かしこまりました。安藤様、何かお困りなことがあればいつでもご相談ください」
人当たりの良さそうだ女性が声をかけてくれた。
「ありがとうございます」
そう伝えると彼は私の腰に手を回し、足を進めた。エレベーターの前でキーをかざすと階数が点滅する。他の階には出入りできないようだ。
「弓川は同じフロアじゃないから安心するといい。ま、会っても俺は困らないけどな」
ニヤリと笑った彼はなんだか楽しそう。
もちろん私は社長になんて会いたくない。末端社員の私の顔はわからないだろうが、それでも社長に蒼生さんと付き合っているなんて
見られたくはない。
エレベーターは途中の階に止まらず、グングンと上昇していった。
「ここだ」
彼はエレベーターが止まると黒いドアを開けた。この階にはドアが3つしか見当たらない。もしかして3世帯でこのワンフロアを使用しているのだろうか?
彼に開けられたドアを入ると目の前には海が見えた。この前泊まったホテルより少し距離はあるが、それでも十分なくらい景色が良かった。よく見ると部屋のあまりの広さに圧倒される。
「ここは来客用のパーティースペースなんだ。一回も使っていないがな」
そんなリビングがあるなんて桁外れにすごい。この部屋の広さといい、窓から前面に見渡す海の景色といい何もかもが凄すぎて言葉が出てこない。
「みちる、こっちで座るといい」
彼は私の手を引くとソファに座らせてくれた。私がキョロキョロしていると、彼は笑っていた。
「広いだけで何もないだろ? あんまりこだわりとかないんだ」
確かに部屋を見渡すとシンプルと形容するしかないくらい何もない。部屋を飾るものはなく、あるのは生活必需品くらい。それも部屋に見合わないくらいの小さなものばかり。でも部屋自体は綺麗に片付いており、全然汚れていなかった。
「不思議だと思っているんだろ? 実は週に一回家政婦さんが入ってるんだ。忙しいとゴミを捨てるタイミングもないし、帰ってくるつもりが帰れなかったりするから」
「そうなんですね。うん、思っていたよりも綺麗でした」
「だろう? 風呂掃除とかも手が回らないし、第一こんな広い部屋を掃除なんてて無理だ。だからこんな部屋に住みたくなかったんだ」
「そうなの?」
「あぁ。親父がここに住んでいた方が便利だし、何よりも箔がつくと言って勝手に契約をしたんだ」
ベリヶ丘の駅から程近く、便利な土地だとは思う。けれど彼はあまり気に入っていないのかもしれない。
「箔がつくってなんだよ、そんなの関係ないし。こういう見た目に騙されるような奴が嫌なんだよ」
なるほど。確かにここに住んでいると言われたら大多数の人は憧れるだろう。彼と付き合って自分もここに住みたいと思うかもしれない。私だって見てみたいと思った。でもそれは興味本位であって、彼自身が好きだから周りなんて関係ないと思う。
今週は仕事が落ち着いているようで、この前話してからすぐに部屋へ招待してくれた。
彼のマンションらしき場所へと近づいていく。まさか、ここに住んでいるの?
車の中からは上層階が見えない。
エントランスに近づくと車を誘導する人が見えた。ドアの目の前に車を付けると彼は車から降りたので、私もそれに倣った。
「じゃ、これ」
彼は車のキーを渡すと自動ドアの中へ入っていった。
「ここの35階なんだ。みちるは高いところ大丈夫か?」
「35階?!」
思わず大きな声が出て、慌てて口を押さえた。
「あぁ、みちるの会社の弓川もここに住んでる」
そういえば社長とは学生の時からの友人だと書いてあった。
ドアを入るとコンシェルジュがふたりカウンターに立って頭を下げていた。私も頭を下げるとふたりとも笑顔で応対してくれる。
そんなふたりに私を紹介してくれた。
「安藤みちるさんだ。これからよくここに出入りするのでよろしく」
「かしこまりました。安藤様、何かお困りなことがあればいつでもご相談ください」
人当たりの良さそうだ女性が声をかけてくれた。
「ありがとうございます」
そう伝えると彼は私の腰に手を回し、足を進めた。エレベーターの前でキーをかざすと階数が点滅する。他の階には出入りできないようだ。
「弓川は同じフロアじゃないから安心するといい。ま、会っても俺は困らないけどな」
ニヤリと笑った彼はなんだか楽しそう。
もちろん私は社長になんて会いたくない。末端社員の私の顔はわからないだろうが、それでも社長に蒼生さんと付き合っているなんて
見られたくはない。
エレベーターは途中の階に止まらず、グングンと上昇していった。
「ここだ」
彼はエレベーターが止まると黒いドアを開けた。この階にはドアが3つしか見当たらない。もしかして3世帯でこのワンフロアを使用しているのだろうか?
彼に開けられたドアを入ると目の前には海が見えた。この前泊まったホテルより少し距離はあるが、それでも十分なくらい景色が良かった。よく見ると部屋のあまりの広さに圧倒される。
「ここは来客用のパーティースペースなんだ。一回も使っていないがな」
そんなリビングがあるなんて桁外れにすごい。この部屋の広さといい、窓から前面に見渡す海の景色といい何もかもが凄すぎて言葉が出てこない。
「みちる、こっちで座るといい」
彼は私の手を引くとソファに座らせてくれた。私がキョロキョロしていると、彼は笑っていた。
「広いだけで何もないだろ? あんまりこだわりとかないんだ」
確かに部屋を見渡すとシンプルと形容するしかないくらい何もない。部屋を飾るものはなく、あるのは生活必需品くらい。それも部屋に見合わないくらいの小さなものばかり。でも部屋自体は綺麗に片付いており、全然汚れていなかった。
「不思議だと思っているんだろ? 実は週に一回家政婦さんが入ってるんだ。忙しいとゴミを捨てるタイミングもないし、帰ってくるつもりが帰れなかったりするから」
「そうなんですね。うん、思っていたよりも綺麗でした」
「だろう? 風呂掃除とかも手が回らないし、第一こんな広い部屋を掃除なんてて無理だ。だからこんな部屋に住みたくなかったんだ」
「そうなの?」
「あぁ。親父がここに住んでいた方が便利だし、何よりも箔がつくと言って勝手に契約をしたんだ」
ベリヶ丘の駅から程近く、便利な土地だとは思う。けれど彼はあまり気に入っていないのかもしれない。
「箔がつくってなんだよ、そんなの関係ないし。こういう見た目に騙されるような奴が嫌なんだよ」
なるほど。確かにここに住んでいると言われたら大多数の人は憧れるだろう。彼と付き合って自分もここに住みたいと思うかもしれない。私だって見てみたいと思った。でもそれは興味本位であって、彼自身が好きだから周りなんて関係ないと思う。