御曹司は初心な彼女を腕の中に抱きとめたい

甘い生活は短くて…

彼は私との同棲をすぐに進めるため、翌日には引っ越し屋の手配をしてしまった。
とはいえ今住んでいるマンションから運び出すのは最低限の衣類や雑貨だけ。マンションの解約もしてしまおうと蒼生さんには言われたが、もう少しだけこのまま置いておきたいと言うと渋々了承してくれた。
同棲する限り金銭的なことを折半するものかも知れないが、私にこのマンションの家賃を折半するだけの給料はなさそうだ。彼は全て出すと言ってくれるが、私は折衷案として食材のお金は出すと伝えた。今までのマンションを借りたままにすると正直お金が厳しいが、食材を工夫すれば料理はなんとかなるだろう。

翌日マンションに彼の車で戻るとすでに引っ越し業者が到着していた。荷造りしてくれるスタッフまできており、私が持って行きたいものを伝えるだけで全てパッキングしてくれた。そもそもそんなに荷物があるわけではないのに二人も手伝いがきてくれたので荷造りはあっという間だった。
マンションのコンシェルジュに預けるよう彼が指示してくれると、私たちはベリヶ丘にあるショッピングモールに行った。
彼のマンションには一緒に暮らすためのものがなにも揃っていなかったから。
カップも食器も最低限のものが1つずつ。炊飯器やフライパン、調理器具も全くない。あるものといえば電子レンジと電気ケトルくらいだった。
冷蔵庫の中も水とビール、醤油が一本だけだった。
どうやって生活しているの? と聞くと頭を掻きながら、ほとんど研究所に篭っていてコンビニや買ったものばかりだったと笑っていた。家ではコーヒーを飲むくらいだったらしい。
コンシェルジュに頼めばなんでも持ってきてもらえるから、と言われたがそんな贅沢はできない。
一緒に家電を見にいくが、私の一人暮らしとは違い、二人のものを思うだけでなんだかドキドキしてしまう。一緒に選ぶ時間さえも楽しくて、あれこれと想像しながら買い物をした。自分の部屋のものだから、と彼は私に気を使わせないような言い方をしてカードで全て支払いを済ませてしまった。

「ごめんね、一緒に暮らすことになってしまったので急な出費になってしまって」

「なに言ってるんだよ。俺が一緒に住みたいって言ったんだ。みちるはそんなこと気にしなくていい」

頭にポンポンと手を乗せられた。そんな彼の仕草がとても好きだ。甘やかされてるって自覚してしまう。

「一緒に住むからってみちるがなんでもやる必要はないからな。俺は家事をして欲しくて同棲するんじゃない。少しでも一緒にいたいからだからな。それにこれからは俺も色々やってみるから」

彼のマンションを見る限り家事ができるようには思えなかった。レンジとケトルしかない人に言われても説得力に欠ける。私が思わずクスッと笑うと、彼は私の頬を軽くつつく。

「やれないと思ってるんだろ? 成せばなる、成さねばならぬ何事も、って昔から言うだろ? やればできる子かも知れないぞ」

そんな言葉にますます笑みが溢れてしまう。

「じゃ、一緒にやりましょう。一緒にキッチンに立てたら嬉しいな」

私がそういうと、彼も頷く。

「そうだな。一緒に立ったら楽しいかも知れないな」

彼と一緒にキッチンに立つなんてて少し前までの私には想像もつかなかった。お一人さま真っしぐらだったはずなのに、蒼生さんと出会い、付き合うようになって私の生活は一変した。私にこんな幸せが訪れるなんて思っても見なかった。
この幸せがなかった頃になんてもう戻れない。思い出すこともできなくなっていた。
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