御曹司は初心な彼女を腕の中に抱きとめたい
奥山さんはリブロースがおすすめだと言うので、私も同じものを頼んだ。彼は細めの見た目にはご飯は大盛り。私は見た目に合わず小盛りにした。
料理が湯気を上げ、運ばれてきた。
ふたりでひとまず盃に注がれた日本酒をコツンを合わせ、お疲れ様ですと言うと喉に流し込んだ。
「まずは塩で食べてみるといいんだけど」
「塩?」
「あぁ。絶対に美味いから。ソースもここのは美味しいけど、まずは塩を勧めるよ。でも無理強いはしないけど」
最後につけた一言で彼の人柄が出る。自分は美味しいと思っても勧めるだけで強要はしない。そんな彼の話に好感をもつ。
彼が小皿に盛られた塩をパラパラとかけているのを真似て私もやってみる。美味しいと言われたら試したくなるのが私の性格。彼のように端のトンカツにパラパラと塩をかけた。
「いただきます」
手を合わせ、箸を持つ。塩のかかったとんかつを口にすると、サクッとした衣と肉汁が口の中に広がる。肉の甘みを塩がさらに引き立てている。柔らかい食感と衣のサクッとした感じのバランスがなんとも言えない。
「美味しい!」
思わず大きな声になってしまった私に奥山くんは笑っていた。
「良かった」
彼も大きな口で一切れを頬張る。「ウマッ」と言う声が小さく聞こえてきた。
長い前髪の隙間から見えた上がる口角にほっこりさせられた。顔はいつもあまり見えないけど、彼といるのは何故か苦痛ではない。
トンカツはもちろんだが、白米やお漬物も美味しくてしゃべるのも忘れ、食べ勧めてしまった。
美味しい日本酒まで飲み大満足な食事となった。
「ごちそうさまでした」
箸を下ろすと、奥山さんは大盛りだったご飯もすでに食べ終わっていた。
「すごく美味しかった。連れてきてくれてありがとう」
「いや。俺も食べたいなって思ったから」
照れているのか、なんだか口調とは裏腹に耳元が赤い気がする。
「美味しいものを食べると幸せな気持ちになるよね。人と食べるご飯って美味しいな」
友達と食べに行きたいところだけど、周りはどんどん付き合ってしまい、結婚する子さえ出てきた。だんだん私と遊んでくれる友達が減り、ましてや金曜だなんて最近は誰も付き合ってくれない。おひとり様に慣れてきたけど、それでも人と向かい合って食べるご飯は素直に美味しいと思った。
残った日本酒をちびちびと飲みながらつくづく寂しいなと感じてしまった。
「安藤さんはよくひとりで外食するの?」
「そうですね。みんな付き合ってる人がいて、私と遊んでくれる人が減っちゃいましたね。付き合ってなくてもこの前みたいな合コンに忙しいみたい」
「そうか。俺も君もこの前は乗り気じゃなかったもんな。むしろご飯を食べに来たというか、数合わせな感じが……」
「ふふふ。そうですね。私なんて狙う人いないので完全な数合わせですね」
自虐的に言うと、彼は焦ったように
「いや、そういう意味じゃ……。でも俺は安藤さんが美味しそうに食べてる姿に少なくとも好感が持てた。みんなは頼んだのに食べもせず、飲んで喋ってばかり。冷めてしまうのが勿体無いと思っていたら俺と同じように温かいうちに食べる子がいてホッとしたんだ」
「やっぱり食いしん坊キャラだ」
「いや。そんな……」
「分かってますって。奥山さんが意地悪で言ってるんじゃないって分かってます。ただ言いたくなっただけ」
つい彼の様子に意地悪を言いたくなってしまっただけだったのに、彼の様子を見てなんだか心が癒される気がした。周りには食いしん坊だと思われていても、彼はそう思っていないと感じてしまったからかもしれない。
「安藤さんは美味しく食べる姿が魅力的だと思うよ。それに太ってもいない。可愛いよ」
正面切って可愛いだなんて言われると返す言葉が見つからない。今日一日で何回言われたのだろうか。言われるたびに私は胸の奥がくすぐったくなった。
思わず黙ってしまうと、奥山さんは言葉が続かない。
料理が湯気を上げ、運ばれてきた。
ふたりでひとまず盃に注がれた日本酒をコツンを合わせ、お疲れ様ですと言うと喉に流し込んだ。
「まずは塩で食べてみるといいんだけど」
「塩?」
「あぁ。絶対に美味いから。ソースもここのは美味しいけど、まずは塩を勧めるよ。でも無理強いはしないけど」
最後につけた一言で彼の人柄が出る。自分は美味しいと思っても勧めるだけで強要はしない。そんな彼の話に好感をもつ。
彼が小皿に盛られた塩をパラパラとかけているのを真似て私もやってみる。美味しいと言われたら試したくなるのが私の性格。彼のように端のトンカツにパラパラと塩をかけた。
「いただきます」
手を合わせ、箸を持つ。塩のかかったとんかつを口にすると、サクッとした衣と肉汁が口の中に広がる。肉の甘みを塩がさらに引き立てている。柔らかい食感と衣のサクッとした感じのバランスがなんとも言えない。
「美味しい!」
思わず大きな声になってしまった私に奥山くんは笑っていた。
「良かった」
彼も大きな口で一切れを頬張る。「ウマッ」と言う声が小さく聞こえてきた。
長い前髪の隙間から見えた上がる口角にほっこりさせられた。顔はいつもあまり見えないけど、彼といるのは何故か苦痛ではない。
トンカツはもちろんだが、白米やお漬物も美味しくてしゃべるのも忘れ、食べ勧めてしまった。
美味しい日本酒まで飲み大満足な食事となった。
「ごちそうさまでした」
箸を下ろすと、奥山さんは大盛りだったご飯もすでに食べ終わっていた。
「すごく美味しかった。連れてきてくれてありがとう」
「いや。俺も食べたいなって思ったから」
照れているのか、なんだか口調とは裏腹に耳元が赤い気がする。
「美味しいものを食べると幸せな気持ちになるよね。人と食べるご飯って美味しいな」
友達と食べに行きたいところだけど、周りはどんどん付き合ってしまい、結婚する子さえ出てきた。だんだん私と遊んでくれる友達が減り、ましてや金曜だなんて最近は誰も付き合ってくれない。おひとり様に慣れてきたけど、それでも人と向かい合って食べるご飯は素直に美味しいと思った。
残った日本酒をちびちびと飲みながらつくづく寂しいなと感じてしまった。
「安藤さんはよくひとりで外食するの?」
「そうですね。みんな付き合ってる人がいて、私と遊んでくれる人が減っちゃいましたね。付き合ってなくてもこの前みたいな合コンに忙しいみたい」
「そうか。俺も君もこの前は乗り気じゃなかったもんな。むしろご飯を食べに来たというか、数合わせな感じが……」
「ふふふ。そうですね。私なんて狙う人いないので完全な数合わせですね」
自虐的に言うと、彼は焦ったように
「いや、そういう意味じゃ……。でも俺は安藤さんが美味しそうに食べてる姿に少なくとも好感が持てた。みんなは頼んだのに食べもせず、飲んで喋ってばかり。冷めてしまうのが勿体無いと思っていたら俺と同じように温かいうちに食べる子がいてホッとしたんだ」
「やっぱり食いしん坊キャラだ」
「いや。そんな……」
「分かってますって。奥山さんが意地悪で言ってるんじゃないって分かってます。ただ言いたくなっただけ」
つい彼の様子に意地悪を言いたくなってしまっただけだったのに、彼の様子を見てなんだか心が癒される気がした。周りには食いしん坊だと思われていても、彼はそう思っていないと感じてしまったからかもしれない。
「安藤さんは美味しく食べる姿が魅力的だと思うよ。それに太ってもいない。可愛いよ」
正面切って可愛いだなんて言われると返す言葉が見つからない。今日一日で何回言われたのだろうか。言われるたびに私は胸の奥がくすぐったくなった。
思わず黙ってしまうと、奥山さんは言葉が続かない。