元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
ドレスの布地を選ぶだけで夕方になってしまった。
レインは、これも王都では有名な人気の菓子店でハーブの練り込まれたクッキーを齧り、薫り高い紅茶を口に含みながら、しかし疲れ切った顔でユリウスに向き直った。
「お兄様、どうして私のためにそんなにお金を使うのですか……?」
「それはもちろん、私がレインを着飾りたいからだよ」
「お兄様が私に甘いのは重々承知ですが、それにしたって限度があります……!」
「大丈夫、レインのドレスぐらい、たとえ百着買ったところで我が家の屋台骨は揺らがないよ」
そう言ってユリウスは優雅に紅茶を飲んだ。
「それに、レインを連れ出したのも、学園を休ませたのも、ドレスを注文したのも、私のわがままだよ。レインが気にすることはないんだ」
「お兄様……」
ユリウスがレインの頬に手を伸ばす。そっと頬を撫でられて、レインは自分の顔がかあっと熱くなるのがわかった。ユリウスの、こういうところがずるい。
ユリウスの指先が耳に触れる。柔らかく耳を挟まれる感触がして、レインはゆっくりと目を瞬いた。