元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
レインが言い切るより前に、ヘンリエッタが振り返る。その目がほの暗く輝いてレインを映していた。
「昨日、ユリウス様とデートしてましたよね」
「え……」
レインは瞠目した。どうしてヘンリエッタが、レインとユリウスが一緒に出掛けたことを知っているのだろうか。
「私、学園を早退して見てたんですよ。二人でお茶なんかして、ドレスまで作っていましたね」
「どうして……」
「どうして見ていたのか、ですか? 簡単ですよ。それがヒロイン『ヘンリエッタ』と隠しキャラ『ユリウス』のデートイベントだったから。だから早退して、そこに行ったんです。ユリウスがいじめられてるヘンリエッタを連れ出して、気分転換させてくれるイベント。なのに、あそこにいたのは悪役令嬢とユリウス。そこは私がいるべき場所だったのに」
「デート、イベント……?」
「そう。ここじゃない世界には、乙女ゲームっていうものがあるらしいんです。お義母さまが教えてくれたの。お義母さまは『ヘンリエッタ』と『ユリウス』のカップリングが好きなんですって」
ヘンリエッタが夢見るような目になって言う。
「お義母さまが私のために全部、全部お膳立てしてくれたの。コックス子爵家に引き取られたのも、私がヒロインの『ヘンリエッタ』だったから……!」