元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
レインは何も言うことができなかった。語り続けるヘンリエッタの言葉が荒唐無稽すぎて、意味を推し量ることすら難しい。
「私も一目見てユリウス様を好きになったわ。あなたはもうユリウスと結ばれるだけよってお義母さまも言ってた。……でも、どうしてあんたがここにいるの? 奴隷落ちして、ゲーム開始前に退場した……お義母さまが排除してくれた、悪役令嬢、『レイン・アンダーサン』が」
何を言われているのかよくわからない。悪役令嬢?ヘンリエッタの義理の母?繰り返した単語が脳裏をぐるぐると回って混乱する。
けれど、ヘンリエッタの様子が、発言が、常軌を逸していることはわかった。とっさにあとずさったレインの腕を、ヘンリエッタの手が捕まえる。耳元で、ヘンリエッタが囁くように言った。
「――……派手なのは肩書だけね、悪役令嬢って、そんなもの? ふふ、もっと手強いものだと思ってたわ」
――はっと見やったヘンリエッタの目はらんらんと輝いていた。青い目が興奮で潤み、その中にレインを映している様子は正気を失っていると言っても過言ではない。