元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

第七話 婚約への後悔(ユリウス視点)

 明るく晴れた春の日。アンダーサン公爵家の庭園にあるブランコをそっと押しながら、ブランコに乗ったレインと一緒に花を見ていた。そこは、タンポポが咲き誇り、愛らしい庭になっていた。
 あの頃だいぶ健康になってきていたレインの目は、陽の光が当たると美しい虹がより濃く現れるようになった。

「私は奴隷です、ゆ……お兄様」
「奴隷じゃないよ。君は僕の大切なお姫様だ」

 いつだって、奴隷だった時を思いだして不安そうに揺れる目に、守ってやりたくてその小さな体を抱きしめたのをよく覚えている。レインの体は細く、華奢で、いい香りがした。花のような、ミルクのような香りだった。

「雨の日に見つけたから、君はレインというんだよ。……雨の日があれば、そのあとには虹が出る。虹が幸せをつかさどるというのは、君も知っているだろう?」

 そう言ったのは本心からだ。彼女の本名、イリスレインという名前は、記憶のない公爵家の養女につけるには仰々しすぎて、イリスレインの素性を世間にばらしてしまいかねなかった。
< 110 / 243 >

この作品をシェア

pagetop