元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

「……」
「自分は、未来の王妃の母親になるんだって。ただまあ、それを言ってるのが夫人本人だけなもんで、最近は病院をすすめられてるそうですね」
「そうだな……そのはずだ」

 ヘンリエッタの母親は、いつごろからか、社交場に現れては「自分は未来の王妃の外戚だ」などと吹聴することが増えたという。ヘンリエッタの母親――コックス子爵夫人は夫の間に数年前、男の子が生まれているが、まだ手のかかる自分の子供より、愛人の産んだ娘に執心なのは不思議なことだ。また、その子爵夫人は、結婚してすぐは普通の人間だったという。結婚後、足の骨にひびが入る程度のけがをしたらしいが、それだけで人格が変わるほどの衝撃を受けるだろうか。
 ますますわからない。

 ユリウスは考え込み、ペンを握って新しい紙にさらさらと書き込んだ。
 怪我の前後や結婚してから、夫人に近付いたものがいるかもしれない、と思ったのだ。
 ユリウスは書き終わったものを折りたたみ、封筒に入れて封をすると、ベンジャミンに手渡した。

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