元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
「これを、父上に。今は王都の近くにいるらしいから、なるべく早く、渡しておいてくれ。私はレインが攫われたあの日の警備状況について、もう一度記録を探してみるつもりだ」
「承知いたしました。……なあ、本当に、おひいさまの婚約を、そのままにしておいていいのか?」
「そうするしかないだろう。決まった婚約なのだから。……あの日の決断を後悔しても……」
ベンジャミンの気づかわし気な視線に、ユリウスは首を横に振った。
そう、王家からの婚約を許可したのはユリウスだ。それを今さら覆すなど、レインの評判にもかかわる。
ぐっと奥歯を噛んだユリウスに、ベンジャミンが続ける。
「おひいさまがそれで幸せになれるって?」
「結婚後に、幸せにするために、今調査をしているんだ、コックス子爵令嬢を排除して、王家に危険などないように……」
「――見損なったぞ、ユリウス・アンダーサン」
それは、はっきりとした言葉だった。
臆することなく言い切ったベンジャミンを見上げたユリウスの目を、ベンジャミンのまっすぐな視線が射抜く、
そこに、不敬への後悔や、罰への恐怖はみじんもなかった。