元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
ベンジャミンが畳みかける。それは、いっそユリウスに剣を向けていると言っても過言ではないような不敬だった。ぶしつけで、直情的な、怒りだった。
「お前を、主君と仰いだことを後悔させてくれるな。失望させるなら、今ここでお前の首を噛みちぎってでも俺がおひいさまを攫うぞ」
「……二度目の誘拐を、私がお前に許すと思うか。レインを傷つけるなにをも、私は許さない。……許さないと誓ったんだ、あの日、レインを救い出した日に」
ユリウスはゆらりと立ちあがった。幽鬼のような顔が窓に映る。
ああ、ひどい顔だ。そう思った。
ユリウスはこぶしを振り上げ、思い切りベンジャミンの横っ面を殴りつけた。
さすが騎士と言うだけあって、ベンジャミンは少したたらを踏んだだけだ。しかし、口の中が切れたのか、その唇の端からは血が流れている。
「レインは私の命だ! 何より大切なあの子を、もう二度と怖がらせはしない! お前じゃない、ベンジャミン! 私が守る! 私が――己のすべてをかけても守ると誓う!」
ぜえぜえと肩で息をするユリウスを、ベンジャミンがじろりとねめつける。……そうして。
「……ほら、言えるんじゃないですか」
――ふっと、笑った。
「不敬を、申しました。ユリウス様。主君に牙を向く従僕は、罰せられても仕方ありません。どうぞ罰をお与えください」
ベンジャミンは深く頭を下げた。首を差し出すようにこうべを垂れて、ユリウスの断罪を待っている。けれど、ユリウスは静かに言った。