元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
いつもご主人様に殴られていて、目のあたりを腫らしているレインは、目があまり見えない。
だからうまくその人を判別できなくて、反応が一瞬遅れてしまった。それがいけなかった。
ばちいん!という大きな破裂音がした、と思ったら、レインの小さな体はその場からひと一人分くらいの距離を飛んでいた。
どた、と倒れ込んだレインの体を、使用人の足が容赦なく踏む。きしむような嫌な音がして、レインは呻いた。
「ぁあ……」
「人形は見つけたのか!名無し!」
耳が聞こえにくい老人特有の大きな嗄れ声。厩番だ、とレインは気づいた。
レインはいつも、厩の近くの干し草小屋で寝起きする。彼は自分の生活範囲の中にレインのような汚いものがあることをひどく嫌った。
厩番はレインを足蹴にしながら、脚が悪いために持ち歩いている杖で思い切りレインを打ち据えた。ばしん、ばしん、と響く音が、ただでさえ熱と怪我で弱っていた心を降り砕く。
(痛い……)