元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
レインは胸を押さえた。
「私は、親不孝な子供だったでしょう。父も母も、苦しめた末に死なせてしまうだなんて……」
「――違う!」
ユリウスは立ちあがった。はずみで馬車が揺れる。
「……ッ」
ユリウスの両の腕がレインを抱きしめる。服越しの腕は冷たく、震えていた。
「お兄様……」
「違う、レイン。君は何も悪くない。咎を受けるべきは、君を攫った暴漢と、その手引きをした侍女――……そして、無謀にも、暴漢に立ち向かった私だけだ」
ユリウスが顔を伏せ、くぐもった声で言う。
レインを抱きしめて、まるですがるみたいに、祈るみたいにして、レインに君は悪くないんだ、と告げる。
「お兄様だって、悪くありません」
「しかし……」
「王配殿下が亡くなったのは、お兄様のせいではありません」
レインはきっぱりと言った。