元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

「私には、恩があります。情があります。……そしてなにより、私はお兄様を――ユリウス様を愛しています」

 ユリウスの名前に、恋を、想いを滲ませて声にする。ユリウスの目に自分が映っている。ユリウスの瞳の中のレインは、泣きながら笑っていた。

「愛しています。お兄様、あなたが私を助けてくださったから、私はここにいるのです」
「それは話をすり替えただけだ……。責任の所在を、別の話で塗り替えただけ」
「あら、ばれてしまいましたか?」

 レインは、ふふ、とあえて声をたてて笑った。
 顎を伝い落ちた涙が、青い、ユリウスの髪と同じ色のドレスを濡らす。

「私はずるいのです。お兄様。あなたに救われたことしか覚えていない……。父のことも、母のことも、ガラス一枚を隔てた向こうのことのように感じているのです」

 ――だから、お兄様が責任を感じる必要はないのです。

< 138 / 243 >

この作品をシェア

pagetop