元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
「ほら、レイン。おいしいよ」
ユリウスの白い指先が、きつね色に焼けたスパイスクッキーをレインの口元に運んでくる。まるで、鳥が行う求愛行動――給餌行動だわ、と思って、レインは胸を押さえて口を開いた。
「いい子だね、レイン」
レインの口にそっとクッキーが差し込まれる。さくり、と噛んだクッキーは、口に入った途端ほろほろと崩れ、きつすぎない胡椒の味を舌に伝えてくる。
「おいしいかい?」
「お、おいしい……です」
「そうか」
目の前にわずかに影がかかる。次いで、ちゅ、とこめかみに触れる柔らかい感触。
口付けされたのだと気付いて、レインはもうどうしようもなく緊張してしまった。
世の中の恋人同士というものは、みんなこういうものなのだろうか。……そう思うと同時に、ユリウスより甘いひとはいないんじゃないか、とも思った。
「ふふ」
「ユリウス様?」
「ごめんね、レインがかわいくて、つい、キスしてしまった」
「からかっていらしたのですか?」
「からかってなんかいないよ。いつだって、私はかわいいレインのこの唇に、キスしたいと思っているとも。でも、きっとレインにはまだ早いから、こめかみで我慢しているんだ」
「あ……」