元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
 思い出すのは、あの卒業パーティーの日、レインとユリウスが結ばれた日のこと。
 唇に触れた感触を、忘れた日などない。
 甘やかで、蕩けるような、幸せな体験だった。
 レインがそんなことを思い出してもじもじしていると、ふいに屋敷のほう――つまり、真後ろから声が聞こえて来た。

「仲良しですね、お二人とも」

 ユリウスの従僕であるベンジャミンだ。
 こんな、ユリウスにべったりと甘えているところを見られてしまった、と恥ずかしくなって慌てたレインが、ユリウスの膝から降りるべく体を動かすも、ユリウスの手はレインをしっかりと抱いたまま、離してはくれない。

「あ、あの……」

 恥ずかしくて、照れてしまって――困り果てたレインがベンジャミンを見上げると、彼は「ははは! 相変わらずユーリはおひいさまが好きで好きで仕方ないんですね」と豪快に笑った。

「ベン、レインとの時間を邪魔するな」
「ああ、違う違う。馬に蹴られに来たわけじゃないぞ」

 ユリウスに対してだけ砕けた口調で、ベンジャミンは両手を振ってユリウスの言葉を否定した。

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