元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
「イリスレイン。君は今、幸せかい」
「――はい」
迷うことなど何もない。レインはためらいなく頷いた。国王が、にっこりと笑顔になって「そうか、そうか」と安堵したように言った。
「おとうたま、どうちた……ノ?」
「イリスレインが、今幸せだという話だよ」
その問答こそが幸せそうで、レインはなぜか胸が痛んだ。痛む?いいや、痛いというほどじゃない。ただ細い針で刺されたような、ちくりとした感覚が合っただけだ。
レインはその光景から目を離さないまま、ぼうっとして「ユリウス様」と尋ねた。
「レイン?」
「私の……私の父は、どんな方でしたか?」
「……優しい方だったよ。目の色は緑で、髪は銀で。……レインに、雰囲気がよく似ていた」
「……思い出せないことが、申し訳ないです」
ユリウスの言葉に、やっぱり何も思いだせることがなくて、レインは視線を下に下げた。
ユリウスがそっとレインの背を撫でて言う。
「無理に思いだそうとしなくていいし、思い出せないことをすまなく思う必要なんてないよ、レイン」
ユリウスは穏やかに言った。優しい声音だった。
「レイン、言い忘れたけれど」
「ユリウス様?」
「そのドレスも、髪も、よく似合っている」
「……ありがとうございます、ユリウス様」
レインは微笑んだ。ユリウスの、気分を変えてようとしてくれる言葉が嬉しかった。
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