元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

第十一話 ヘンリエッタという「ヒロイン」(ヘンリエッタ視点)

 故郷に雨が降ることはめったになかった。ヘンリエッタの故郷は、南にある、枯れた土地だった。ヘンリエッタが生まれたとき、ヘンリエッタの家にはお金がなくて、いつもヘンリエッタはおなかをすかせていた。ヘンリエッタの産みの母はいつも、悲しい顔で「ごめんね、ヘンリエッタ」とヘンリエッタに謝っていた記憶がある。
 ヘンリエッタが物心ついて間もなく、ヘンリエッタは子爵家に引き取られた。
 袋一杯の金貨を持って帰っていく母の後姿を、ヘンリエッタは見えなくなるまで見ていた。

 コックス子爵夫人だという新しいヘンリエッタの母は優しかった。
 新しい母は、ハシバミ色の髪を揺らして、ヘンリエッタを大切な宝物を見るような、熱のこもった目で見つめてくれた。

 新しい母は、実は自分は異世界からの転生者なのだと言った。
 異世界には、ヘンリエッタが見たこともないような、想像したこともないような高度な文明があって、母はそこで死んで、この世界に生まれ変わったのだと。
< 171 / 243 >

この作品をシェア

pagetop