元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
ヘンリエッタはくるりと回る。『ヒロイン』の正装を見せつけるように。
「『ヒロイン』は優しくていい子なの。かわいくて、慈愛にあふれてて、悲しんでいるひとを見かけると放っておけない。手を差し伸べてしまう。だから、みんなに愛されるの」
夢見るような顔で続けるヘンリエッタ。
レインは――レインは、ぐっと奥歯を噛みしめた。痛いくらいの力で。
そうした理由の感情に名前をつけるなら――……。
「それは」
――怒り、だ。
「あなたのことではないわね、ヘンリエッタ」
「……え?」
「悲しんでいるひとに手を差し伸べるのが『ヒロイン』なら、あなたは真逆だと言ったのよ。だってあなたは、今泣いているアレン王子を無視している」
「…………え」