元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
ヘンリエッタの顔が強張る。レインはアレンの頭を守るように抱きなおして、続けた。
「あなたは異世界人ではなく、義母が元異世界人だというのなら、聞きかじった情報しか持っていない。本当の『ヒロイン』、ヘンリエッタを知らないのではなくて? あなたは――あなたは、本当に、自分が『ヒロイン』の『ヘンリエッタ』だと思っているの?」
レインの言葉がその場に落ちた瞬間、ヘンリエッタの顔が仮面にのようになって、表情が消えた。
震える声でヘンリエッタが呟く。
「だって、お義母様は、私が『ヘンリエッタ』だって」
「ええ、そうだったのでしょう、きっと、もとはそうだった。私はそれを否定しません。でも、あなたの話を聞いていると、なんだか違和感があるの。……大丈夫よ、アレン王子」
「おねえたま……」
レインはアレンににっこりと笑いかけ、ヘンリエッタに向き直る。
「私はあなたに嫉妬を感じないの。ユリウスをもの扱いして、手に入れる、と言ったことに怒りを感じても。それはどうしてか、考えたの」
レインの後ろを囲む使用人たちは、何も反応しない。まるで薬物中毒のような様子と、うつろな目。まるでよくできたお人形のようだ。
「――あなたは、ユリウスのことも、オリバーのことも……ほかの人のことも、好きではないのね」
「――……ッ!」
ひゅ、と息を呑む音がした。ヘンリエッタの目が驚いたように見開かれる。
震える唇が紡ぐ。