元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
強く、強く、レインは言った。
やっと、ヘンリエッタの姿が見えた気がした。
ヘンリエッタも、レインが守るべき人間のひとりだった。
泣いていたヘンリエッタが顔を上げる。青い目に、レインの赤い瞳が映る。
「本当に……?」
「ええ、あなたのもとに、あなたのお母様を、返すわ」
レインが頷くと、ヘンリエッタはその子リスのような顔をくしゃくしゃにして涙をこぼした。
「おかあさんに、会える……?」
「ええ」
「おかあさんを、助けてくれる……?」
「必ず」
「う、うう……おかあさん、おかあさん……!」
ヘンリエッタが大声を上げて泣きじゃくり、レインにしがみつく。レインはほっと息をついた。
ヘンリエッタを安心させるように撫でてやって――その時だった。
「――この、役立たずが」
部屋の扉が開き、重苦しい、憎々し気な色を孕んだ声が、その場に落ちたのは。