元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
ほっと息を吐いたレインは、静かに尋ねた。ヘンリエッタに目配せする。
「その人たちには、薬を飲ませたのですか」
「ああ。コックス子爵夫人は薬物に詳しくてな。おかしなことを言うやつだが、これをこれだけ飲ませれば何も感じなくなる、というのを教えてくれたよ。……ヘンリエッタを幸せにするため、と言えば、なんでもする、実に便利な人間だ」
ヘンリエッタがカタカタと震えている。アレンは意味がわからなくても、おびえてまた泣いている。声を出さずに。
そうか、そうやって、たくさんのひとの人生をめちゃくちゃにしたのか。
レインだけでなく、この使用人たちの、そうして、ヘンリエッタの人生を、壊したのか。それを理解して、レインはぎゅっと手に力を込めた。
「……解毒法は、あるのですか」
「さあな、この書類にサインをすれば、教えてやってもいいぞ」
「……見せてください」
レインの言葉に、オリバーは顔に喜色を浮かべた。
懐から取り出した紙をソファの前のテーブルに置き、レインの肩を掴み引きずって行く。
そうしてレインの手に無理矢理に羽ペンを握らせ、インクをずいと押し出してきた。