元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
「合鍵は?」
「ある……はず」
「わかりました。ヘンリエッタ、アレン王子、手伝ってください」
レインが椅子を持ち上げる。それで察したのか、ヘンリエッタはティーテーブルを、アレンはそれより小さな箱を、ドアの前に立てかけた。
さすがにベッドは運べないから、それ以外の家具を、二人がかり、あるいは三人がかりで重ねていく。
あまり時間は経っていなかったように思う。
けれど、ドアの向こうからオリバーの声が聞こえてきたのは、レインとヘンリエッタが最後のチェストを扉の前に重ねてすぐのことだった。
「おい! ここを開けろ!」
乱暴にドアを叩く音がする。レインは震えるヘンリエッタとアレンを抱きしめてドアの先を睨み据えた。
「くそ、開かない……。誰か! 合鍵を持ってこい!」
ドン、ドン、とドアが叩かれる。みしり、重ねた家具が鳴る。
鍵を持ってこられてしまえばもうだめだ。多少は時間を稼げるだろうが、逃げ切ることはできないだろう。