元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

 ダンゼントがヘンリエッタに手を伸ばしている。
 ダンゼントなら――ダンじいやなら、大丈夫だ。

「跳びましょう!」
「はい!」
「あい!」

 ヘンリエッタとレインは同時にバルコニーを蹴った。
 やっとのことでバルコニーにたどり着いたオリバーが二人に手を伸ばすが、その手は髪をかすめるだけでぎりぎり届かない。

 落ちる、落ちる――けれど、こわくない。
 衝撃がレインを襲う。けれど、恐ろしくなんてなかった。
 ユリウスが抱き留めてくれると、信じていたから。

「レイン……!」
「ユリウス!」

 目があって、その美しい琥珀色の目が安堵したように細くなるのを見たとき、レインの目は張りつめていた糸が切れたように涙をこぼしてしまう。

「おにいさまぁ……」
「レインが私をそう呼ぶのは、久しぶりだね……」

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