元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
かつかつと高い靴音が、しいんとした牢に響く。
音の主に気付いたのか、うなだれるように座っていたオリバーが顔を上げた。
「ああ……ユリウスか……」
「最後に申し開きがあるなら聞こう。私はそのために来た」
げっそりとこけた頬はここ数日でいっそう顕著になった。よほどこの環境に参っているのか、それとも、自らの計画が失敗したことへの口惜しさか。
ユリウスは牢の前に立ち、痩せやつれたオリバーと対峙した。
「申し開き? これ以上何を言えばいいんだ。公開裁判で明日、死刑を言い渡されるやつが」
「ああ、言い方を間違えたな、すまない。貴様の動機を尋ねに来た。これは個人的な用事だ」
「――……お前は、どれだけ俺を馬鹿にすれば気が済むんだ!」
オリバーの激昂に、ユリウスは静かな目を向けた。そこにはオリバーへの恨みや怒りはなく、ただ憐みのような色があるだけだった。
「俺はいつだってお前と比べられてきた! 凡庸な王から生まれた、凡庸な王子! 優秀なユリウス・アンダーサンと出自を入れ替えられればいいのに、と何度も何度も言われてきた!」
がしゃん!と牢の鉄格子を掴み、オリバーがユリウスに顔を近づける。