元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
女王イリスレインは民を愛し、民に愛された君主だった。
彼女の治世は穏やかで、戦争もなく、けれど王配とともに打ち出した政策で国を富ませていった。
また、イリスレイン女王が、王配であるアンダーサン公爵に溺愛されていたという文言は、どの歴史書にも残っているほどで、それほど夫婦仲がよかったという。
夫との間に三男三女をもうけ、子供たち全員の成人を待って、第一子に王位を譲ったイリスレイン女王は、その後は自らが育った、王配の実家でもあるアンダーサン公爵家でおだやかな余生を送ったという。
――私の陽光。
現代において愛する人をそう称するが、これを最初に言いだしたのは、まさにこのイリスレイン女王である。
その相手であるアンダーサン公爵が、彼女の妻のことを「私の慈雨」と呼んでいたことから、夫婦で互いを「雨と陽光」と呼びあうことが定着したのだろう。
なぜなら、雨のあとには、必ず陽光がやさしくあたりを照らす。そうして生まれる虹こそ、幸せの象徴だからだ。