元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

第二話 救出、そして保護

 乗り込んだ馬車の中は、レインの知らない世界だった。

 何度か入ったことのある領主の館にも、こんな緻密な細工の窓枠飾りはなかったし、領主の館にあるどの椅子よりもこの馬車の椅子のほうがふかふかして見えた。

 座ったことがないので座り心地はわからないが、きっと干し草と比べるのもおこがましいほどの座り心地だろう。
 レインはきょときょとと馬車の中を見回した。床に座ればいのだろうか、でも、床ですら素晴らしいもののように思えるから、きっとレインはどこにも座ることはできない。

 おろおろするレインに、ユリウスが優しく尋ねる。

「どうしたの?」

 そう言いながら、ユリウスはレインを横抱きにしたまま馬車の座席に座ってしまった。
 レインの着ている服から染み出した泥水が、ユリウスの服も、座席をも濡らしているのを見て、レインは卒倒しそうになる。
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