元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
「わ、私……」
「うん?」
「馬車から、降ります」
「レイン、それはだめだよ。早く宿に行って治療しないと、本当に君は死んでしまう」
「で、でも……」
口ごもるレインに、ユリウスは悲しそうな目を向ける。かたん、と軽い音をたてて、馬車が動き出した。アンダーサン公爵は違う馬車に乗ったのだろうか。
「レインは、僕といっしょに行くのがいやかい?」
「ち、違うんです……!よ、汚して、しまう、から……」
「汚してしまう?」
レインの言葉を繰り返し、ユリウスはレインの視線の先を追った。服と席にしみこむ泥水を見て、ああ、となぜか顔をほころばせた。
「僕と一緒に行きたくない、というわけではないんだね。よかった」
「よくない……ッ!です……」
一瞬声を荒げたレインに、しかしユリウスは優しい声で話しかける。