元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

「ものなら直る。服なら洗えばいいし、座席は張り替えればいい。でも君にかわるものはないんだよ」

 言って、ユリウスはレインの泥で汚れた顔を白いハンカチで拭った。

「よ、汚れ……」
「大丈夫、君が汚してしまうものなんてないよ。君が一番きれいなのだから」

 ふふ、と笑ったユリウスの顔は見とれるほど美しい。それなのにあたたかくて、レインの胸の内をほこほことあたためた。
 思わず胸を押さえたレインを微笑みながら見つめていたユリウスは、そう言えば、と口を開く。

「君は、名無し、と呼ばれていたね。君の名前は?」

 先ほどレイン、と呼ばれたから、てっきり、ユリウスはレインの名前を知っていると思っていた。先ほどのはレインの聞き間違いだったのだと思って、レインは少しだけ恥ずかしくなった。

「わかりません。私は奴隷として売られる前のことを覚えていないんです。でも、なんとなく、レインと呼ばれていたような気がして……奴隷になる前は、そんな風に呼ばれていた気がして、自分ではレインだと思っていました。……あ、でも!本当の名前かはわかりません、私は名無しです。好きによんでください」
「そう」
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