元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
ユリウスは、レインが自分をレインと呼んだ時は嬉しそうだったのに、名無しと呼んだ時はぐっと眉根を寄せた。
「名無しじゃない」
「は、はい」
「ああ、ごめん。君に怒っているわけじゃないんだ。あの愚か者……タンベット男爵に怒っているんだよ」
ユリウスが、レインの濡れた髪を指ですく。ろくに手入れもされていない髪は、ユリウスの指に絡まってしまった。それを見て、いたましいような、悲しいような顔をしたユリウスは、けれどレインを安心させるためか、笑顔を浮かべた。
「……じゃあ、僕もレインと呼んでいい?雨の日に、出会ったから、君はレイン。君はレインというんだよ」
言い聞かせるような言葉だ。レインに、レインなのだと自覚してほしいような。
こくん、と頷いたレインに、ユリウスはほっと安堵したように微笑む。