元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

 ユリウスの膝に座らされ、ユリウスの両手がそっとレインを包み込む。しみこんだ泥水が悲しい。けれど、それ以上にあたたかくて、それを嬉しいと思ってしまったから、レインは何も言えなくなってしまった。

 とくん、とくん、と心臓の音が、包み込まれ、胸に抱かれたせいで触れあった耳から伝わってくる。安心する――……。
 どれだけそうしていただろう。

 ふいに、ユリウスが馬車についた小窓のカーテンを開けた。窓の向こうは土砂降りの雨で、それに気付いてから、さきほどまで静かだと思っていたのに、馬車の天井からも雨の粒の打ち付ける音がひっきりなしに響いているのを知った。

 レインが腫れぼったい目でぱち、ぱち、と窓の外を見る。

「そろそろだよ」

 そうユリウスに言われて、目を凝らすと明かりが見えた。レインは邸から外に出たことがないから、街灯を見てもそれを街灯だと理解できなかった。ユリウスに、あの明かりは街灯だよ、と教わって、やっとそれが道しるべの明かりなのだと知った。

< 34 / 243 >

この作品をシェア

pagetop