元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
「ゆ、ユリウス様!違うんですのよ、私――その、レイン様にいじめられて」
「違います……!私、そんなこと」
「言い逃れをする気か!レイン・アンダーサン!」

 なぜかユリウスを見て目の色を変えたヘンリエッタがついた真っ赤な嘘に、レインは反論しようとした。けれどすぐに上から降ってきた罵声のようなオリバーの言葉に、ひく、と喉が震え、それ以上の言葉が出てこなかった。

(お兄様だけには、ご迷惑をおかけしたくなかったのに)
 
 王太子が選んだ令嬢だ。たとえそこに証拠がなくたって、ただでさえ元奴隷という瑕疵のついたレインは、ヘンリエッタをいじめた、という罪を問われるだろう。
 大好きな、レインのお兄様。たったひとり、レインをあのごみ溜めのような場所から救ってくださった、レインの神様。

 レインの体が、おこりのように震える。婚約破棄された、という事実にではなく、ユリウスの輝かしい経歴に、自分のようなものが汚れをつけてしまった、ということが、そしてそれが原因で、ユリウス自身に軽蔑されるかもしれない、ということが恐ろしかった。

 ――けれど。

「大丈夫だよ、レイン」

 ユリウスは小さくささやいた。レインにだけ聞こえるような、やわらかな声で。

 はっと振り仰いだユリウスは、レインの髪を優しく撫ぜて、レインを安心させるように微笑んで見せた。
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