元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

「そうです! レイン様、ひどい!この期に及んで、いいわけをするなんて……」
「黙れ、愚か者!」
「へ……?」

 ユリウスの言葉に、ヘンリエッタはきょとんと目を瞬いた。オリバーも目を丸くしている。
 それはレインも同じで、レインはユリウスの腕に包まれたまま、ユリウスを見上げてぽかんと口を開けた。それはそうだ。いつだって穏やかで、冷静に王太子をいさめる未来の側近であるはずのユリウスが、こんな、全身に怒気をみなぎらせて、あまつさえ「愚か者」などと暴言を吐く姿を、誰が想像できただろう。

 低い声が耳朶を打つ。それは、傷ついた番を守るオオカミの唸り声にも似ていた。
 我慢ならない、というようにわなわなと震えるユリウスは、レインをそっとその場に立たせると、かつかつと靴音を鳴らし、オリバーのもとへ歩み寄った。

 それを何と勘違いしたのか、オリバーが余裕を取り戻し、手をひらひらさせて口を開く。

「そ、そうだ、愚か者だな。王太子の婚約者をいじめるなんて……」
「貴様のことを言っている。オリバー・グレイウォード!そこの女にそそのかされただけなら看過できようが、貴様、今なんと言った。私のレインを、よくも奴隷令嬢などと言ってくれたな」
「ゆ。ユリウス様……?」
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