元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
レインの手が力なく膝に落ちる。この身が張り裂けるかもしれない、と思った。
だって――ずっと、恋をしていた相手から、他の人間との結婚をほのめかされているのだから。
レインはユリウスが好きだった。おそらくは、あの雨の日、レインを拾ってくれたそのやさしい手を取った瞬間から、恋に落ちていた。気が付いたのしばらく経ってからだ。……けれど、義理とはいえ、妹が兄に懸想するなんておかしいし、世間的にも異端なことだ。
レインはいい。たとえ兄への恋心を糾弾されても、この想いを抱いていられるだけで充分幸せだ。
けれど、兄は違う。輝かしいアンダーサン公爵――その未来を、レインなんかがつぶしていいわけはない。
「レイン、お前はどうしたい? お前が望まないなら、私がどんな手を使ってでもこの婚約を阻止しよう」
ユリウスの言葉が重苦く響く。ユリウスの言葉からして、その打診は、しつこく、何度も繰り返されてきたのだろう。ユリウスは、その防波堤になってくれていたのだ。
これ以上、ユリウスに負担をかけるわけにはいかない、と思った。