元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

「レインを幸せにするなら、レインが望んだ相手でなくてはいけない」

 ユリウスは書類にサインをしながらつぶやくように落とした。
 書斎の本棚から必要資料を探していたベンジャミンが大きくため息をつくのが聞こえる。

「ユーリはさ、おひいさまのことが好きなの」
「好きじゃない」
「お、意外」
「好きなどでは足りない、この世のすべてをあわせたより愛している」
「お、重すぎ」

 ベンジャミンは重い資料をどさりと執務机に置き、手をひらひらさせて言った。

「そんなに好きならやっぱりそばに置いておけよ。第一王子の嫁なんかじゃなくてさ」
「愛している、だ」
「そう、愛してる。お前はおひいさまを愛してる。ならちゃんと――」
「しかし、レインが好もしいと思ったのはオリバーなんだ」

 ユリウスは目を伏せた。レインが「とても良い方だと思いましたわ」と言った時の、あのどこか後ろめたいような表情は、レインがユリウスに気を使っているときの癖だ。

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