元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される
 顎を引いて、眉を下げて、手をきゅっと握って。
 誰よりも近くで彼女を見ていたからわかる。レインは、ユリウスを慮ってあんな顔をしたのだ。

 オリバーとレインはずいぶん仲良くしていた。その光景を見て、頭に血が上った。その少女は自分の大切な宝なのだと――その手で触れるなと思った。しかもレインに接したあの適当な態度。それはユリウスにとっては許しがたいものだった。

 レインはユリウスの姫君だ。慈しむべき唯一無二の存在。そんなレインに傅くならまだしも、無遠慮に引き寄せようとその手に触れたオリバーを許せなかった。

 ……けれど、オリバーに渡すのが嫌だからと言って、自分ではレインを幸せにできないこともわかっていた。
 そんな自分でなくて、オリバーに好感をもったレインをどうして責められるだろうか。

「……王家に、この書状を送ってくれ。婚約の件、了承した、と」
「……ほんとに送っていいんだな?」
「ああ」
「後悔しないな?」
「ああ」
「……ばかだよな、お前」

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