誰も知らないもうひとつのシンデレラストーリー
悠々自適。マイペース。


そんな言葉が似合う彼は、

全くと言っていいほど、空気を読むことを知らず、毎日を優雅に過ごしていた。


こんなこと思っちゃいけないけど、我が儘王子と囁かれた言葉は彼にぴったりだと思う。

転校初日に抱いた「違う世界の人」という印象は、やっぱり間違えてなかったみたい。

周りを気にしすぎる私には、正直ちょっと羨ましいくらいだった。


だけど、不思議なのは、誰も彼から離れることがなかったということだ。


あんなにも自由気ままで、悪く言ってしまえば我儘な性格だというのに、そこも面白いと、友人が減ることはない。

彼はそんな隠しきれないカリスマ性を輝かせていた。


「妃花は?何してんの?」


一人で何をするわけでもなく座っていた私。

まさか話しかけられるとは思っていなくて少し反応に遅れてしまった。


「…えっ?私は、特に何も…」


って、見れば分かるよね?

誰かと話していた訳でも、机に何かを広げていた訳でもない自分の姿を客観的に想像し、私はそんな目で山城君を見た。


どこか不思議そうな、何かを考えているような、そんな目と視線が交わる。


その目に違和感を持った私が、じっと見つめ返すと、彼はふっと目を細めて優しく笑った。


いつもの軽やかな笑いとも違う、優しい笑顔に、私は驚く。

自分だけに向けられた優しい微笑みは、なにか勘違いを起こしてしまいそうなほどに温かくて、私は、視線を不自然に揺れ動かした。


「…ほんと、芸能人みたい」

「よく言われる」


沈黙に耐えられず、誤魔化すようにして思わず呟いた言葉に、山城くんは満足げに笑って、また席へと戻って行った。

取り残された私は、ドキドキと音を立てる心臓の鼓動に、しばらくの間翻弄されることとなった。
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