誰も知らないもうひとつのシンデレラストーリー
そよ風に揺られる花びらにそっと触れ、笑顔をこぼした時、突然隣から声が聞こえた。


「いつも、やってんの？」


完全に自分の世界に入っていた私は、驚きで大袈裟な程肩を揺らす。

その動きに、声をかけた本人も驚いたようで「悪い」と小さく呟いた。

謝罪に対して、首を振ってから、改めて私は口を開く。


「いつも、じゃないけど。出来る日は来てる…かな。」

「ふーん？」


自分で聞いておいて、やっぱり興味のなさそうな返事に、私は苦笑いを零し、声の正体だった山城くんの顔を見上げた。


その表情は、想像していたものとは違い本当に優しいものだった。

私は驚いて思わず動きを止める。


山城くんは、花壇の低い囲いに腰を下ろし、そっと花びらに触れた。


「いいね、ここ。落ち着くね」


教室にいるときの光り輝いた目立つ姿とは違う穏やかな雰囲気に、私も不思議と落ち着いていた。


「だよね。好きなんだ。」


気付けばそんな風に自然と呟いてしまっていて、私ははっと驚く。


誰が相手でも、人と一緒にいる限りはどこか気を遣って息苦しい。

そんな毎日を生きていた私には、それは初めての経験だった。
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